薄田 孝誠さん
大阪府岸和田市立春木中学校
教諭
※本インタビューは、2021年3月に行ったものです。
途上国での学びを伝え
日本の子どもたちの世界を広げる
2019年 大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程前期修了
プロフィール:兵庫教育大学学校教育学部卒業後、2016年広島大学大学院国際協力研究科に入学。2017年から2年間ザンビア特別教育プログラムの一環でザンビアに派遣され、2019年9月に博士課程前期を修了。その後、2020年4月より大阪府岸和田市の春木中学校で英語教諭(1年4組担任・学年生徒指導)として勤務し、現在に至る。
本インタビューは…2021年3月に行ったもので、所属先はその時点のものです。
ザンビアで教員の「信念」を探る
日本の未来を担う子どもたちの教育に携わりたいという思いから兵庫教育大学に進学しました。熱い思いを持つ学生や現職の学校の先生方と関わり、視野が広がったことで、もっと世界を舞台に人のために生きたい、途上国で働きたいと考えるようになりました。青年海外協力隊について情報を集める中で、広島大学大学院国際協力研究科(現国際教育開発プログラム)のザンビア特別教育プログラムを発見。国際協力に関する知識がなかった私は、知識を習得しつつザンビア共和国で青年海外協力隊として活動できるというプログラム内容に魅力を感じ、国際協力研究科に入学しました。
在学中、2017年1月からザンビア特別教育プログラムの一環でザンビアに派遣され、ムカンドという地域の中等学校(日本の中学校・高等学校に当たる)で子どもたちに数学や物理を指導。現地教員と寝食を共にして深く関わり合う中で、彼らがどのように教員として成長しているのかに興味を持ち、修士論文では教員の成長やそれを支える「信念」について研究しました。信念とは、行動の基盤となるその人独自の考えやマイルールのことです。現地教員の信念が何を契機として生まれるのかを探るため、調査対象者と共に生活しながら行動を記録するエスノグラフィーという手法を用い、6人の教員に付きっきりで行動観察やインタビューを行いました。彼らの信念の中には、6人全員に共通するものや、ザンビアならではものがあり、大変興味深かったです。調査の結果、学生時代の同級生や教員との関わり、教職に就いてからの生徒や同僚との関わりなどさまざまな経験から信念が形成され、それらが教員としての成長につながっていることが分かりました。
ザンビアでの2年間を基に書き上げた私の修士論文は、アフリカ教育研究フォーラム第23回大会で優秀賞をいただきました。長期間現地に滞在し、教員らと信頼関係を築けたからこそ行えた研究であったと感じています。
英語を用いて視野や可能性を広げて
ザンビアで学校教育に携わったことで、途上国で働きたいという気持ちに変化が生まれました。なぜなら、ザンビアには日本の支援がなくとも発展していく力があると感じたからです。そこで、再び日本の教育現場で働きたいという気持ちが芽生え、現在は大阪府岸和田市の春木中学校で英語教諭として勤務しています。
クラスの担任や生徒指導を通して、多くの子どもたちと関わる中で、教員だけでなく生徒もそれぞれ「信念」を持っていることに気付きました。問題を起こす生徒の根底にある考えや、その背景にある両親からの教えなど、行動の裏側にある信念を捉えるべく、生徒としっかり向き合うことを大切にしています。
ある日の道徳の授業で、私がザンビアで行った研究授業の動画を見せる機会がありました。生徒たちは、私が英語で物理を教える様子や、同年代の現地の子どもたちに興味を持ち、食い入るように動画を見ていました。経済的に恵まれた日本に生まれたことを感謝しなければいけないと感じ取ってくれた生徒もおり、海外で暮らしたからこそ分かった日本の豊かさを生徒たちにも伝えられたのではと感じました。
また、何よりも生徒に伝えたいことは、英語によって自分の視野が広がるということ。例えば、海外のニュースが読めるようになれば、得られる情報量が圧倒的に増え、多角的な視点が得られます。私自身、国際協力研究科のメンバーと英語で議論したり、ザンビアで暮らしたりする中で、新たな知見を得ることが多くありました。生徒たちには、ぜひ英語を使って視野を広げ、多様な世界を知り、私の協力隊時代のように、誰とでも喜怒哀楽をともにできる人になってほしいと思います。教員としてはまだまだこれからですが、自分の経験を生かした授業を通して、生徒の可能性を広げていきたいです。