木根 主税さん

宮崎大学大学院
教育学研究科 准教授

※本インタビューは、2021年3月に行ったものです。

多角的な視点で教育と向き合い、 途上国での経験を日本に還元する

2012年 大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程後期修了

プロフィール:1994年熊本大学教育学部卒業後、中学校の数学教員として勤務。青年海外協力隊として2年間ドミニカ共和国で活動後、広島大学大学院国際協力研究科(IDEC)に入学し、2003年から2年間ザンビア特別教育プログラムに参加。2012年に同研究科博士課程後期を修了し、JICA短期専門家、国際開発アソシエイトコンサルタント等を経て、現職。

本インタビューは…2021年3月に行ったもので、所属先はその時点のものです。

ザンビアで教育現場の現実に触れる

 地元の熊本で数学の臨時講師として勤務していた時、友人の紹介で青年海外協力隊に参加し、2年間ドミニカ共和国で教育分野のボランティアに携わりました。この経験から国際協力の仕事に興味を持ち、専門的に学びたいと考え始めました。進学先を検討する中で目に留まったのが広島大学大学院国際協力研究科(現国際教育開発プログラム)。

 教育分野の国際協力について学べることに加え、「ザンビア特別教育プログラム」に魅力を感じました。このプログラムは、JICA海外協力隊としてザンビア共和国で活動しながら、修士号の取得に取り組めるものです。従来の国際協力は、赴任者が短期間で入れ替わり、取り組みが継続されにくいと感じていたので、大学院とザンビアの中長期的なつながりのもと、派遣学生の経験が蓄積されて次世代に受け継がれるプログラムの仕組みに惹かれました。

 私は2003年から2年間このプログラムに参加し、ザンビアで前期中等教育(日本では中学校教育に当たる)の数学教員として授業を担当しながら、現地の教員研修も実施しました。現地の教員との交流を通して気付いたのは、自分が無意識のうちに「教育力の乏しい途上国に日本の力を授ける」という固定観念に基づいて途上国の教員や教育を見ていたこと。ザンビアでは、数え棒を木の枝で代用するなど環境的制限がある上、教員の社会的地位も充実したものではありません。しかし、与えられた環境の中で、ザンビアの教員たちは一生懸命指導に取り組んでいました。国によって教育への考え方や教員の立場は異なりますが、必ずしも途上国の教員や教育が先進国と比べて劣っているわけではありません。ステレオタイプな途上国の姿を当てはめるのではなく、ザンビアの学校教育の実情を踏まえ、多角的な視点を持って授業や研修をしなければならないと考えを改めることができました。

 また、ザンビアでは子どもたちに意味や理由を理解させることなく、計算方法をただ暗記させている場面も目にしました。教員研修では、現地の先生方には「算数や数学の原理を理解させることが子どもの成長にとって望ましい」と伝えたかったのですが、先生自身の理解が不十分であったり、実現は難しいという諦めがあったりしたため、今後の課題として残りました。中長期的な支援が行えるプログラムの特徴を生かし、私がザンビアで得た知見や研究は、次に派遣される後輩たちに引き継いでもらっています。

開発途上国で得た見識を、日本の教育発展に生かす

 博士課程前期修了後、ガーナ共和国やミャンマーで開発コンサルタントの仕事をしていたこともありましたが、その道で働き続けるには、環境や制度など専門以外の分野にも詳しいゼネラリストであることが求められました。一方、私はもともと数学教員を目指していたこともあり、算数・数学教育のスペシャリストになりたい気持ちがありました。

 そこで、自身の専門性を高めながら、途上国と日本の両方の教育現場に関われる道として、大学で数学教育の研究を続けることに。開発途上国の教育に加え、日本の教員養成に携わることで、途上国や日本での私の経験を伝えた学生たちが教員となり、より広い視野を持ちながら教育現場で活躍することで、日本の教育にも貢献したいと考えています。

 現在は大学教員として宮崎大学大学院教育学研究科教職実践開発専攻(教職大学院)に所属し、教員を目指す学生や現職教員の大学院生を指導しています。ザンビア特別教育プログラムで得た多角的な視点は、学生への指導はもちろん、研究者として現場の教員に指導や助言を行う際にも役立っています。現場の先生にも個々の考え方があることや、環境的な問題で理想を実現できない状況は、日本国内でも同じです。現場の諸課題を見つめなおし、現場に寄り添った関わりを持つことで、よりよい教育の実現に貢献したいと思います。

 教員志望の学生の多くは、充実した学校教育を受けてきたり、学校が楽しかった経験があったりと、学校に「良いイメージ」を抱いているのではないでしょうか。しかし、社会には勉強がうまくいかない子どもや、そもそも頑張ろうと思えない子どももいます。学生たちには、そのような多様性を受け入れ、幅広い視野をもちながら教育に携わることの重要性を伝えていきます。

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