左右田 あみさん

元北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターザンビア拠点
特別専門職員

※本インタビューは、2021年3月に行ったものです。

研究で磨いた交渉力を用いて
日本とザンビアとの架け橋に

2012年 大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程前期修了

プロフィール:大学卒業後1年間幼稚園で運動指導員として勤務後、青年海外協力隊のボランティアとして2年間ブータンで活動。帰国後、中学校の教員を経て、JICAの短期隊員として再びブータンへ。その後広島大学大学院国際協力研究科に進学し、博士課程前期を修了。結婚を機にザンビア共和国へ移住し、2015年から2020年まで北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターのザンビア拠点で勤務。

本インタビューは…2021年3月に行ったもので、所属先はその時点のものです。

保健体育の重要性を広く普及したい

 大学在学中にスリランカで学生に水泳を教えたことがきっかけで、海外ボランティアに興味を持ちました。卒業後青年海外協力隊の長期ボランティアに参加し、ブータン王国で2年間子どもたちに保健体育を指導。帰国後は中学校教員として勤務していましたが、やはり途上国で保健体育の普及に携わりたいという気持ちがあり、JICAの短期隊員としてブータンに戻りました。現地で保健体育の授業にまつわる調査やブータンに合ったカリキュラム・教科書の作成を行う中で、今後も途上国で働き、日本と途上国の架け橋になりたいと思うように。JICAや国連などで働くために必要なリサーチ能力やデータ分析力を身に付けるため、広島大学大学院国際協力研究科(現国際教育開発プログラム)に入学しました。

 途上国では、まず読み書きや算数の習得が優先され、徒歩で長距離の登下校を行う子どもたちには体育は不要だという見方が数年前まで一般的でした。しかし、保健体育は体を動かすことだけが目的ではありません。スポーツや運動を通して、友達を応援したり労わったりとさまざまなコミュニケーションが生まれます。それにより子どもたちの心が成長し、集団の中で人間関係を構築する「ライフスキル」を身に付けるのです。私自身も水泳選手として長く競技を続けてきた中で、コミュニケーションやメンタルコントロール、チームプレイなどを学びました。このような背景があり、国際協力研究科では、保健体育の授業の意義や効果について研究しました。

 国際協力研究科の特徴は、自由に研究を進められる点だと思います。指導教員と同じフィールドで研究を行い、手厚くサポートしてもらう大学院や研究室もあると思いますが、国際協力研究科には多様なバックグラウンドを持った学生が集まるため、指導教員の研究フィールドと必ずしも同じ地域でフィールドワークを行う必要はありません。私はブータンで調査を行いましたが、旅費の確保や現地コーディネーターとの調整を通して、現地のやり方を学ぶ良い機会にもなりました。一方で、調査前の質問紙調査の精査やデータの分析、そしてとくに執筆の段階では先生にお世話になりました。おかげで研究も奏功し、卒業後は共著で論文を出すことができました。

途上国の未来を見越した支援を

 博士課程前期修了後、夫の仕事の関係でザンビアに移住。縁あって、北海道大学の人獣共通感染症リサーチセンターのザンビア拠点で4年半ほど勤務しました。プロジェクトマネージャーとして、ラボの管理から物品調達、日本人研究者の宿泊手配、カウンターパート(担当行政官)との交渉まで、感染症の研究にまつわるさまざまな業務の調整を任されていました。北海道大学は10年以上前からザンビア大学獣医学部と共同研究を始め、調査研究に関わる支援を行ってきました。4年間の仕事を通して嬉しかったことは、カウンターパートたちが自ら多額の研究調査資金を世界銀行から獲得したことです。途上国での支援は、常にプロジェクト終了と共に、その活動そのものが途絶えてしまうことがよくありますが、彼らは未来の研究者を育てるためにチャレンジし5年間のプロジェクトを立ち上げました。今まで北海道大学のプロジェクトとして共同研究を続けてきましたが、北海道大学がザンビア大学のプロジェクトの一員となった瞬間に立ち会えたのは一生の思い出になりました。開発援助を仕事とする人の最も希望とする形は、人が人の心を育て、現地の人が独り立ちをし何かを続けるという姿をみる瞬間ではないでしょうか。途上国で長い間支援を続けていくことは、かなり難しいことです。それは資金的な問題もありますが、何より良好な人間関係と信頼関係がなければ続きません。北海道大学の研究者とザンビア大学の研究者が共に長い間、研究を通じて人獣感染症の新たな知見を広げ南部アフリカの人々の生活がより良くなるように努力されているみなさまとをみて、私自身「開発とは何か?」新に考えさせられる仕事に出会えたことはよい経験となりました。

 今後は、自分の専門分野である教育で開発援助に関わる仕事ができればと思っています。また将来的には、ザンビアの人々を末永くサポートするビジネスに挑戦したいと考えています。国際協力研究科では、教育分野にいながら、経済、平和構築、環境、などさまざまな分野の授業も受けられました。それらの知識も生かしつつ、ザンビアで人々に貢献できるような活動をしていきたいと思います。

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