酒寄 晃さん
株式会社国際開発センター
経済社会開発部 研究員
※本インタビューは、2021年4月に行ったものです。
学びの改善を目指し、
アフリカで教育開発に取り組む
2015年 大学院国際協力研究科(IDEC)博士課程前期修了
プロフィール:2005年立教大学理学部卒業後、青年海外協力隊に参加し、ガーナ共和国で理数科教師として支援活動に従事。日本に帰国した後、団体職員、高校の数学講師を経て広島大学大学院国際協力研究科(IDEC)に入学。2015年に同研究科博士課程前期を修了。2015年より現職。
本インタビューは…2021年4月に行ったもので、所属先はその時点のものです。
まるで海外に留学しているような国際色豊かな環境
学部生時代は理学部で数学を専攻するとともに、教員免許の取得にも励みました。卒業と同時に青年海外協力隊に参加し、ガーナで理数科教師として約2年間、教壇に立ちました。帰国後は日本の公立高校に勤務していたのですが、国際協力に携わりたいという思いが強くなり、知見を広めるために大学院への進学を決意しました。広島大学大学院国際協力研究科(現国際教育開発プログラム)を選んだのは、開発途上国の算数・数学教育開発について深く学べる環境が整い、青年海外協力隊のOB・OGの方も多く在籍されていることが魅力的だったからです。
いざ入学してみると、アジアやアフリカから来た国際色豊かな学生が多く、まるで海外に留学しているような気持ちになったことを覚えています。グループワークで教育協力プロジェクトをデザインする授業もあり、多国籍のクラスメートと活発に議論を交わす時間がとても刺激的でした。その中で、たくさんのアイデアをひとつにまとめるリーダーシップや課題発表に向けた進捗管理など、実践的なスキルが培われたと感じます。
これまでの教員経験から、「同じ教科書や教材で授業をしても教員によって生徒の理解が異なるのは何故だろう」という疑問が生じ、在学中は数学教授に必要な総合的知識(MKT)を研究テーマとしました。MKTはアメリカで提唱されている概念で、MKTを測定するテストも開発されています。修士論文では、MKTテストを教員の資質向上が求められるバングラデシュで応用できるかを調査し、その結果をまとめました。指導教官をはじめ、所属していた研究室の先輩にアドバイスを頂きながら、またバングラデシュからの留学生で研究室のOBにテストの翻訳や現地調査をサポートいただき、バングラデシュの小学校教員に対しテストを実施することが出来ました。しかし、現地教員が問題文の体裁や選択式の解答に不慣れだったこと、アメリカ特有の言い回しをうまく翻訳出来なかったことから、さまざまな課題が浮き彫りとなる結果となりました。各国の価値観や文化を考慮したうえで、最適な測定方法を構築する必要があると分かったことは、大きな学びになっています。
MKTテストをはじめ、入学前には全く知らなかった専門的な知識を吸収し、数学の奥深さや面白さを再発見できた大学院生活となりました。修士論文の執筆を通し、物事を論理的に考えて文書で伝える技術の素地も身に付きました。指導教官とは卒業後も定期的に連絡を取り、仕事を進める上でのヒントやアドバイスをいただくなど交流が続いています。忙しく大変な日々ではありましたが、本当に実りの多い2年間だったと感謝の念に堪えません。
エチオピアやガーナで現地の人々と協働し、絆を紡ぐ
現在は、行政機関や独立行政法人国際協力機構(JICA)、民間企業などから発注される調査業務・事業を受託する国際開発センターで、研究員として働いています。これまでの経験を生かして教育開発に関わりたかったため、教育分野での実績も豊富な当社を志望しました。エチオピアの小中学校と高校の算数・数学カリキュラム策定支援および高校で使用する教科書の改定支援プロジェクトや、ガーナの学校運営支援プロジェクトなど、学びの改善に貢献する多彩な事業に取り組む毎日です。
当社は主に実施者として、発注元であるJICAと現地政府との間に立って、事業を現地政府と協働で推進します。現地政府の方針やニーズが変化することも珍しくないので、意見をくみ取り、課題の解決に向けた共通理解を醸成していくことが欠かせません。手だてを講じているとき、大学院で養われた国際感覚や異文化理解力、経験が活きていると実感します。
同じゴールを目指し、各国の人々と協働するプロセスはこの仕事の醍醐味です。一期一会を大切にし、誰とでも「友の心」で接する姿勢を常に心がけています。海外出張が頻繁にありますが、帰国する際、現地政府の職員や住民から「気をつけて!ところで次はいつ戻ってくる?」と声をかけてもらうたびに、また戻って来たいなとやりがいを感じます。将来的には、受託事業の運営管理だけではなく、自分で開発途上国のニーズを吸い上げ、プロジェクト立ち上げの仕掛け人になることが目標です。また、日本では教育開発に関する資料・文献がまだまだ十分にあるとは言えません。そのため、いつか私の体験やノウハウを文書にまとめて発表できればと考えています。自分に何ができるのかをあらゆる面から模索し、開発途上国の未来につながる活動を展開していくつもりです。